概要
NTPと関係する時刻系、関連用語を整理しておこうと思いました。
本記事は、そのあたりを図解付きでまとめたものです。
主にUTC、UT1、TAIと、うるう秒あたりに触れます。
※素人なりに調べてまとめてありますが、不正確な点はあると思います。ご了承願います。
本記事の目的
- NTPと関係する時刻系、関連用語をできるだけ整理する。
目次
基本
ざっくり図解
詳細は後述しますが、ざっくり以下のようなポイントです。
ざっくり表
名称 | 名称 (日本語) |
決定方法 | 1秒の長さ | 提供元 |
---|---|---|---|---|
UTC | 協定世界時 | TAIをUT1に近似 (うるう秒による調整) |
ほぼ一定 ※1 (TAIと同じ) |
BIPM |
TAI | 国際原子時 | 原子時計で計算 | ほぼ一定 ※1 (SI秒) |
BIPM |
UT1 | 世界時 | 天文的な観測・計算(VLBI) | 不定 | IERS ※2 |
※1:ここでは、UT1との簡単な対比のため"ほぼ一定"と表現(詳細は後述)
※2:UT1が決定される過程を把握しきれなかったので、ここでは、IERSが提供するUT1-UTCのデータが、公式なUT1の値を含むという意味で記載
基本的な用語の整理
System Clock
- コンピュータシステム内の時計です。
- NTPクライアント等の時刻同期機能により、その時刻を修正できます。
NTP(Network Time Protocol)
Leap seconds(うるう秒)
UTC(Coordinated Universal Time、協定世界時)
- 世界各地の標準時の基準となる時刻系です。
- UTCとTAIとの差は整数秒であり、その差は、今までに挿入あるいは削除されたうるう秒の累積値と同じです(2017年1月1日以降、2022年11月時点で-37秒)。
別の言い方では、UTCは世界時(UT1)に近似するよう調整された原子時系(TAIと同じ時刻系)です。 - 1秒間の長さは、TAIと同じです。
1秒以上の精度が必要されない場合、UTCはUT1の近似値として使用できます。 - UTCはBIPMが決定します。
- UTCは各タイムゾーンにおける標準時(standard time)を決定する際の基準になることが多いです。
- うるう秒による調整が発生し得るため、不連続な時刻系です。
TAI(International Atomic Time、国際原子時)
UT1(Universal Time)
JST(Japan Standard Time、日本標準時)
- JSTは、UTC(NICT)を9時間進めた時刻です。
- JSTはNICTが決定します。
- JST = UTC+09:00 です。
- NICTの説明によると、BIPMが決定するUTCとは別に、NICTは"UTC(NICT)"を決定しており、この"UTC(NICT)"からJSTが決定されているそうです。
NICTは、UTC(NICT)を、UTCとの差が±10ナノ秒以内となるよう管理しているそうです。 - NICTでは、JSTを配信するNTPサーバ(stratum 1)が稼働しています。
このNTPサーバは"日本標準時(JST)"を基準としています。世の中の多くのstratum 1は、"米国標準時(GPS)"を規準としています。
その他の用語の整理
標準時(standard time)
常用時、市民時(civil time)
GPS時刻
詳細
GPSとUTC
NTPはUTCを基準に時刻同期を行いますが、前述の通りGPS時刻はUTCとは異なる時刻データです。
ここでは、GPS時刻がどのようにUTCに変換され、NTPで使用できるようになるかを簡単に記載します。
※全てのケースに当てはまる説明ではないと思います。
GPS衛星
↓ 航法メッセージ(GPS時刻+UTC補正値)
GPS受信機
↓ NMEA(UTC)
NTPサーバ(stratum 1)
GPS衛星から得られる航法メッセージには、GPS時刻の他、UTCとGPS時刻の差に関する値が含まれています。
GPS受信機内でUTCに変換されてから出力されるようです。
(GPS時刻とUTCの時刻差はうるう秒の累積値により変動するので、一律に変換することはできません)
GPS受信機から時刻データを得るには、NMEAというプロトコルが使用されるようです。
より詳細については、GNSS(GPS等)の航法メッセージやNMEAのフォーマットについて確認が必要です。
リファレンスクロック(stratum 0)
NTPにおいて、原子時計やGPS、電波時計などの高精度の装置はstratumは0と呼ばれることがあるようです(リファレンスクロック)。
stratum 1のサーバは、参照先のリファレンスクロックの種類に応じた文字列("GPS "等)をNTPのヘッダ内のrefidに含めることになっています。
(RFC5905 7.3. Packet Header Variablesより)
TAIは実際の時刻を過ぎてから決定される
TAIは世界各地に設置されている原子時計の時刻を加重平均したものなので、最高精度の計算結果は、実際の時刻を過ぎてから(計算が終わってから)得られます。
その計算結果を待たずにリアルタイムのTAIを参照するには、過去データを基づくリアルタイム評価値や、GPS衛星から送信される時刻信号を用いるようです。
時刻系の原点や調整
TAI
- 1958年1月1日0時0分0秒 TAI開始
- 1977年に歩度調整あり
UTC(TAI)の精度
NICTのQ&A集に、実際のところは、標準時の1秒1秒の刻みの正確性、どうやって確かめるのでしょうか?という質問が掲載されています。
この質問に対する回答の中に、協定世界時の精度は"数100万年に1秒の誤差"と記載されています。世界協定時(UTC)とありますが、実際にはTAIの原子時計の加重平均による時刻算出の話なので、TAIの精度についての説明です。
UTCとTAIの定義(BIPMより引用)
The formal definition of UTC and TAI was adopted by the CGPM in 2018.
BIPM technical services: Time Metrologyより
the CGPM at its 15th meeting (1975) noted that Coordinated Universal Time (UTC), derived from TAI, provides the basis of civil time, and strongly endorsed this usage,
…
UTC provides a means to measure time intervals and to disseminate the standard of frequency during intervals in which leap seconds do not occur,
…
International Atomic Time (TAI) is a continuous time scale produced by the BIPM based on the best realizations of the SI second. TAI is a realization of Terrestrial Time (TT) with the same rate as that of TT, as defined by the IAU Resolution B1.9 (2000),
Coordinated Universal Time (UTC) is a time scale produced by the BIPM with the same rate as TAI, but differing from TAI only by an integral number of seconds,
Resolution 2 of the 26th CGPM (2018)より