概要
そのシンプルな見た目と異なり、USBの仕様は複雑ですね。特にバージョンや規格の互換性まわりは難しいです。
本記事では、USBの様々な使い方のうち、USB Type-C 経由で外部ディスプレイに映像出力する際の仕組みについてまとめます。
USBのバージョン選択やMode Entryのあたりを、おおまかに整理します。
出典:USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.2 | USB-IF (当サイトにて赤枠、赤字で注釈)
注意
本記事の内容は個人的な調査結果や経験に基づいたものです。
正確な情報や最新の情報については、当該組織の公式Webサイト等をご確認ください。
調べるきっかけ
先日、"AndroidタブレットからUSB Type-C ポート経由で映像出力できるか" を確認した際に (以下の記事) 、USBの仕様を調べてみました。
本記事で参照する仕様
本記事では、USBに関連する以下の仕様を参照します。
USB Type-Cポート経由で外部ディスプレイに映像出力できる規格
USB Type-Cポート経由で外部ディスプレイに映像出力するためには、以下のいずれかの規格に対応している必要性があると認識しています (2023年9月時点)。
- Thunderbolt 5 (2023年9月発表!)
- Thunderbolt 4
- USB 4 (DP Tunneling)
- Thunderbolt 3
- DP Alt mode
- USBデバイス独自規格 (DisplayLinkやj5 create等、専用のアプリ/ドライバ等を使用)
上記が有線での映像出力手段です。有線以外だと、無線 (キャスト) での出力です。
特にUSB4、Thunderbolt3、DP Alt Modeあたり
上記のうち、本記事では特にUSB4、Thunderbolt3、DP Alt Modeあたりの話をします。
Thunderbolt 4, 5については対応機器も少なく、Intelから仕様書が公開されている訳でもなさそうなので省略します。
USBデバイス独自規格については、市販されている商品の例を後述します。
参照する仕様書
本記事では、主に以下の仕様書を参照します。
USB Type-Cの仕様書
USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.2 | USB-IFUSB4の仕様書
USB4® Specification v2.0 | USB-IF
USB関連の仕様全般については、以下にまとめてあります。
外部ディスプレイに映像出力できるまでの流れ (Mode Entry)
出典:USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.2 | USB-IF (当サイトにて赤枠、赤字で注釈)
上図は、USB-IFの仕様書から引用しています。
PCやタブレット、スマホ等のデバイス (やハブ) のUSB4 ポートが、他のUSBデバイスと接続した際に、どの規格に合わせて (互換性を確保して) 動作するかの決定フローの例を図示したものです。
補足事項は、例なのですべてのUSB4機器がこのフローのとおりに動作する訳ではないという点と、Alternate Modesに関する図なのでUSB4の動作フロー全体を説明している訳ではないという点です。
外部ディスプレイに映像出力できるパターン
上図では、以下のいずれかの規格で動作できた場合に、外部ディスプレイへの映像出力が可能です。
※接続相手の機器がその規格で動作できるという前提です。
USB4
DisplayPort Tunnelingによる映像出力
(USB4におけるprotocol tunnelingの1つ)Thunderbolt 3 Alt Mode (TBT3)
Thunderboltでサポートされる映像出力DP Alt Mode
DP Alt Modeによる映像出力
仕様書上の表記
図中のDFPは、Downstream Facing Portのことで、USB deviceと接続するためのポートです。下流と接続するイメージですね。
PC等のUSB4 hostはDFPを備えており、このDFPとUSB周辺機器を接続します。
なお、DFPは、PC等以外にハブやドック (USB4 hub、USB4-based Dock) にもあるので、仕様書のDFPは汎用的な表記だと理解しています。
本記事では、このDFPがPC等 (PCやタブレット、スマホ等) のものであるという前提で話を進めます。
動作の優先順位
上図のDFPは、接続相手のUSB機器に応じて、以下の優先順で動作する規格を決定します(※)。
- 最優先: USB4
- USB4が不可なら次に優先: Thunderbolt 3 Alt Mode (TBT3)
- TBT3が不可なら次に優先: DP Alt Mode
- DP Alt Modeが不可なら: Mode Entry Failure
接続相手のUSB機器は、ハブやドックかもしれませんし、単一のUSBデバイスかもしれません。またUSBのバージョンやThunderboltの対応可否も様々です。
このように、多様なUSB機器を接続した際にも、一定のロジックで動作する規格が決定されるようになっています。
(※)これは例なので、実際の製品 (実装) により動作条件は異なります。
優先順位を決定する要素
上記の優先順位は例なので、実際には以下の要素をもとに動作が決まります。
- 自身のポート、接続相手、ケーブルがサポートできる規格
- DFP (DFPを管理する機器) が優先する規格
後者は、その機器 (のUSBポート) が何を優先するかによって動作が異なるということになります。
全般的なDiscovery and Entry Flow
上図は、外部ディスプレイへの映像出力について把握する上でちょうど良かったので引用しました。
実際には、上記のMode Entry以外に、USB4にはUSB3.2以下との互換性等もあるので、USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.2の "5.4 USB4 Discovery and Entry Flow Requirements" に記載されている内容も考慮することになると思います。
参考例: Mode Entry が成功しなかった場合等
例えば、タイムアウト (tAMETimeout) までに Alternate Mode への mode entry が成功しない場合、デバイスはUSB 2.0 interface (USB Billboard Device Class) を提示します (デバイスが USB4 対応なら、タイムアウト(tUSB4Timeout) までに 前述のUSB4 discovery and entry process、USB 3.2 or USB 2.0へのフォールバックが成功しない場合に提示)。
これらのフォールバックや USB Billboard Device Class の提示により、映像出力できるパターンもあるのかもしれませんが、詳細は理解できていません。
E.2 Alternate Mode Requirements
…
If a device fails to successfully enter an Alternate Mode within tAMETimeout then the device shall minimally expose a USB 2.0 interface (USB Billboard Device Class) that is powered by VBUS. If the device additionally supports USB4, then the device should defer exposing a USB 2.0 interface (USB Billboard Device Class) due to an Alternate Mode timeout until the USB4 discovery and entry process has completed (See Section 5.2.2).
…
5.2.2 USB Device Functional Requirements
…
The USB4 device shall provide a USB interface exposing a USB Billboard Device Class when it cannot connect as a USB4 device and doesn’t support and expose equivalent functionality over an Alternate Mode, USB 3.2 and/or USB 2.0 within tUSB4Timeout.
出典:USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.2 | USB-IF
Billboard Device Classについては、以下あたりの仕様があります。
USB4機器の映像出力関連の要件
参考までに、USB4機器の映像出力関連の要件について記載します。
USB4® Specification v2.0をもとにまとめた表です (カッコ内は章番号)。
USB4機器種別 | DisplayPort Tunneling | DP Alt Mode | Thunderbolt 3 |
---|---|---|---|
USB4 host | 必須(10) | すべてのDFPで必須(2.1.1.5) | オプション(2.1.5) |
USB4 hub | 必須(10) | すべてのDFPで必須(2.1.1.4.2) | すべてのDFPで必須(2.1.5) (USB4 dockはDFPに加えUFPでも必須) |
USB4 peripheral device (周辺機器) |
オプション(10) | - 記載が見当たらない (たぶんユースケース無し) |
オプション(2.1.5) |
詳しくは仕様書で
本記事で説明した仕組みにより、USB Type-Cポート経由で外部ディスプレイに映像出力ができるようになります。
ただ、おおまかに整理した程度のレベルなので、より詳細に把握するためには、仕様書等を確認することになると思います。
USBデバイス側の独自規格
本記事の冒頭に記載した、USB Type-Cポート経由で外部ディスプレイに映像出力することができる規格のうち、USBデバイス独自規格について市販されている商品の例を記載します (以下の有線接続の機器については、もしかすると機器側のUSB Type-CポートがOTGに対応している必要性があるのかもしれませんが詳細は把握していません)。
- 独自仕様の有線接続
- DisplayLink ※Type-AからType-Cへの変換アダプタがさらに必要
- j5 create (台湾メーカー)
- DisplayLink ※Type-AからType-Cへの変換アダプタがさらに必要
有線でなく無線 (キャスト) では以下のようなものがあります。
- ワイヤレスキャスト
- Chromecast (やその互換品)
- Chromecast (やその互換品)
まとめ
本記事では、USBの様々な使い方のうち、USB Type-C 経由で外部ディスプレイに映像出力する際の仕組みについてまとめてみました。
USBのバージョン選択やMode Entryのあたりを、おおまかに整理しています。